■ 2015年9月25日(金)に、大規模な模擬授業が開催されました。
静岡東高等学校は、北は仙台、南は下関まで全国の11校の国公立大学から13人の教員を招いて模擬授業を行い、2年生全員が受講した。学問分野ごとに多種多様なテーマで行われた。各授業は同じ内容で2回繰り返され、生徒はあらかじめ希望した授業を2つ受けるという仕組み。受講した生徒は最終的に、「大学模擬授業ワークシート」に授業の内容のメモ・感想を書き、学校に提出する。
学問分野 | テーマ | 大学名 |
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文学 | 人はなぜ言葉をしゃべれるのか | 名古屋大学 大学院文学研究科 |
外国語学 | 英単語の世界 | 東京外国語大学 大学院総合国際学研究院 |
社会学 | 私が社会を/社会が私を、つくる ― 行動科学からみた社会と個人 | 東北大学 文学部 行動科学専攻 |
法学 | 本当はとっても役に立つ法学の考え方 | 金沢大学 人間社会学域 法学類 |
経済学 | ほんとうの経済学事始め | 下関市立大学 経済学部 経済学科 |
教育学 | そうだ、先生になろう | 愛知教育大学 美術教育講座 |
心理学 | 実験心理学 高校生のための心理学入門 | 筑波大学 心理学類 |
理学 | 科学の法則を数学で解明する | 名古屋大学 大学院 多元数理科学研究科 |
工学 | 振動制御 ― 振動を抑える ― | 山梨大学 機械工学科 |
農学 | 「応用微生物学」を学ぼう | 新潟大学 農学部 |
生物学 | ミトコンドリアゲノム変異のインパクト 〜Parasite EVE の真実〜 |
筑波大学 生命環境系 |
薬学 | 薬を創り育て健康を守る薬学の世界 〜遺伝子解析から災害医療まで〜 |
岐阜薬科大学 実践社会薬学 大講座医薬品情報学研究室 |
看護学 | 「わたしたちにできること」 うつ病や自殺の予防について |
三重大学 精神看護学 |
これまで静岡県内の大学に模擬授業を依頼することはあったが、全国の大学から13人の教員を集めた催しは初めて。単独の模擬授業ということではなく、1学期から継続して行われていた志望校選びの進路指導プログラムの一環を担っている。 企画・運営を担当された2年部進路課の長谷川先生と、進路指導主任の竹中先生に今回の意図を伺った。
<長谷川先生>
授業は高校生に合わせるのではなく、あえて大学のレベルでお願いしたので、内容が難しいと感じる生徒も多かったでしょう。しかし、単に“難しい話を聞く時間”で終わりにせず、“大学での学び”がどのようなものか、実感してほしいですね。例えば、「大学に入学すると、こんな高度なことをやるんだ!」とか、「自分が興味を持っていることが大学の学問にどのようにつながっているか」という気づきがあればよいと期待しています。
日々の授業と大学の学問とのつながりを感じてもらい、受験勉強のモチベーションを上げる意図もあります。
<竹中先生>
素晴らしい研究や授業をしている大学が全国には数多くあります。しかし、本校の生徒は地元志向が強いため、そのような大学への本校からの進学は少ない傾向です。この模擬授業を、生徒の視野を広げて大学と出会う機会にしたいと考えています。さらに、それが今後の高校生活の目標になるとなおよいと思います。
授業の様子(1)
【社会学】 東北大学 文学部
「私が社会を/社会が私を、つくる ─ 行動科学から見た社会と個人」
大学進学者数の動向について、18歳人口の変化を表示しながら、社会学的な観点として“保護者の所得の違い”も提示し、生徒に解説。高校生にはシビアな内容だったが、大学進学に関する傾向について挙手で意見を聞くなど、後半も飽きさせない工夫が見られた。
受講した男子生徒は、「社会学にイメージが持てなかったが、具体的に何をするのかが理解できた」と話す。第一志望は外国語学だが、社会学にも興味が出てきたという。
女子生徒は、「社会学は数字を使って難しい分析をするものと思っていたが、もっとわかりやすく興味深いものだとわかった。個別の大学でどのようなことが学べるのか調べてみたい」と話してくれた。
授業の様子(2)
【農学】 新潟大学 農学部
「“応用微生物学”を学ぼう」
医薬品や食品・飲料、生活用品など、微生物の働きが社会の中で利活用されている事例を、図や写真、高校生が知っている製品などの具体例も用いて紹介。生徒も熱心にメモを取っていた。
高校の化学の授業で扱う物質名をあげて、「もう授業でやった?」という先生の問いかけに対し、生徒がうれしそうにうなずく場面もあった。大学の学びが高校の勉強とつながっていることが実感できたようだ。
受講した理系志望の女子生徒2人は、「農学は狭い範囲を研究するという印象だったが、世の中での活躍の場はとても幅広いとわかった」「難しかったので大学に入って授業について行けるか不安になったが、もっと勉強をしなければと気が引き締まった」と話した。
アンケート結果から
※今回の模擬授業の総括をするため、生徒、大学教員、高校教員へそれぞれアンケートを行った。
生徒の満足度は96%と高い数字だった。生徒からは「内容は難しく、まだ今の自分だと理解できない点もあったが、内容を理解したいと思った」「同じ学部でも学科によって学ぶ内容が全く異なることがわかった」など意図通りの反応が見られた。
一方、大学教員からは、「生徒からもう少し意見や質問が出るとよかった」「おとなしい生徒が多い気がします」という意見も出たが、「2時間目は少し疲れているようでしたが、頑張って聞いてくれた」「非常に熱心に聞いていただけた」と熱心さを実感したようである。高校の意図に沿った模擬授業が実践できたといえる。
高校教員からは、実施日程や運営方法についてほぼ問題なしという評価だった。生徒からも「とても勉強になった」「刺激を受けた」という声が多く、行事としては大変だったが、意義のあるものだったと多くの先生方が感じているようだ。
まとめ ─ マナビジョンブック編集部 所感 ─
1つの高校で、全国から13人もの国公立大学教員を招いての模擬授業は、例を見ない大規模な進路イベントだ。
受講した生徒は大学教育の専門性の高さを実感し、受験へ意識を高めるよい機会となった。さらに、大学教員の応対や教室までの案内を生徒が担当することにより、生徒と大学教員双方にとって、普段接することのない人とコミュニケーションが生まれる、貴重な機会となったはずである。
運営する高校側は、大学教員への依頼や学問系統のバランスなど難易度の高い調整が必要となったが、その苦労に見合う成果は確実に表れたと思われる。